育児休業を取得した花巻市 長井謙副市長との対談

花巻市の長井謙副市長(取材時:31歳)が、令和2年1月29日、「育児休業」を3日間取得する意向を示しました。

副市長は昨年8月に第1子が誕生。特別職のため育休規定はありませんが、2月21日までに3日間の休業を取得するほか、8日間は午後4時15分に退庁します。
今回の取得に至った経緯、また、今回の体験を今後どのように活かしていくのか。
ファザーリング・ジャパン東北・理事の後藤大平が尋ねました。(取材日時・令和2年2月19日)

後藤(以下G):「いつごろから育休を取得しようとお考えになったのですか?」

長井副市長(以下)N:「子供が生まれたのが8月だったのですが、実はその時にも付き添い休暇のような形で1週間程度お休みを頂き、妻の実家の埼玉の方へ帰省していました。丁度お盆時期も重なったので抱えている案件も調整出来たタイミングでした。その後妻と子供も岩手に引っ越し、改めて3人での生活がスタートしたところだったんです。

でも実は育休というのは現実問題として自分が取ることを意識していなかったんです。私自身が国からの出向者で、任用期間も限られた中で育休を取るという判断をするのはどうなのか…という悩ましさもあり、現実的には難しいかなと感じていましたが、そんな折、市長から「そう言えば長井君は育休取らないの?」と聞かれまして。「出向中ですけどいいんですか?」と聞き返しましたが、快く「いいんじゃない?」と言って頂き、じゃあ取ってみよう!と決心できました。」

G:「そうだったんですね!」

N:「さすがに半年や1年は厳しいかもしれないけど、例えば丸1日休む日と、早めに帰る日を何日か作るとか、そういう形でも大丈夫だよと言って頂きました。丁度2月末から議会も始まりますし、それまでの期間を利用して1か月の間に休む日(3日間)と早く帰る日(16:15分退庁×8日間)を調整し取るような形にすれば、実現できるな…と考え、取得することを決めました。期間は少ない方だとは思うのですが、少しでもメッセージのようなものとなってくれたらという想いもあります。」

G:「一県民としても、心強いです!我々ファザーリング・ジャパン(以下FJ)は、全国各地でイクボスを推進しており、研修や講演の中で、よく「隗より始めよ」というお話をします。今回の副市長の決断はまさに「自ら率先して行動する」というイクボスのお手本のような判断だと感じます。最近ですと小泉環境相の育休取得も話題となりましたが、大臣も様々なメディア取材等で「自分が率先して行動することで空気を変えたい」ということを仰っていましたし、お二方にはそうした共通項も感じました。ちなみに実際問題として、例えば仕事の配分等の調整については、どのような段取りを組まれたのでしょうか?」

N:「僕の場合は、スケジュールが1カ月先まで埋まっているような状態でしたので、秘書と連携し、休める日はあるだろうか?とピックアップするところからスタートしました。また、自身がいなくとも支障がないものについては、例えば市長とどういったやり取りがあったかを後に共有してもらうこともありました。役職上、直接協議の場に出なければいけないものもあれば、単純な報告で済むような案件もあるので、優先度や重要度を考え、「この日は休んでも支障がない」と判断・調整して時間を確保するようにしました。」

G:「なるほど。今回の副市長のような取得の仕方は、色々な方が参考に出来るやり方だなと感じます。副市長という役職は、普通の管理職と比べても担う責任も業務のスケールも大きいけど、工夫次第でこうやって時間を作り、育休を取得出来る。一般の管理職が「忙しくて育休なんて無理だよ~」なんて言い訳できなくなりましたね(笑)。」

N:「そうですね(笑)!分刻みのスケジュールの大臣も取ってるくらいですからね!」

G:「工夫次第、という感じですよね。」

N:「それと、育休って本来は男性自身が育児や家事を共有するという事が究極の目的だと思うんです。そう考えると、例えば普通の有給で1時間早く帰宅するという方法を取り、先に帰って自分が料理を作るというやり方もあると思います。半年や1年不在にするという形でなくとも、どうすれば今よりももっと子育てや、妻の家事育児の負担共有を実現できるか。それぞれに合った形で、工夫が出来ると思います。」

G:「僕もそう思います。育児参画という目的がぶれなければ“取るだけ育休”なんてことはないんだろうなぁと。」

N「今回取り上げて頂いたことで、イベントや会議の場でも“副市長は取るだけ育休はだめですよ!”と言われたこともありました(笑)。「気を付けます!」って(笑)。」

G:「(笑)。最近僕が聞いたケースだと、1週間育休を取得した男性が、ベビーカーを中古で捜し歩いて育休が終わったというケースもありました。意味ないじゃんって(笑)。」

N:「(笑)。」

G:「でも、折角副市長が率先して行動してくれたのに、結果、取るだけ育休が増えました!だったら意味がないなとも思ってるんです。最近僕が思うのは、取るだけ育休の原因は「男性自身の意識が育つ機会が少ない」点にあるんじゃないかなと。育児にしろ、妻のサポートにしろ、そうした知識を男性が事前に学ぶ場が少ないことも原因だと思っています。」

N:「確かにそれはありますね。」

G:「実際に子育てが始まると、家事をやることよりも、どれだけ妻と二人で寄りそって家庭を回していくかということの方が何十倍も大切だなと痛感できるんです。でもそれを事前に教わる機会って中々ないんです。それも育休という期間を有意義に送ることが出来ない男性を生んでいる背景にあるのかなと感じます。」

N:「なるほど。」

G:「ちなみに長井副市長は、こうした男性自身の意識を育てていくという事について何かお考えはございますか?」

N「難しいところですね。花巻市役所の話になりますが、取るだけ育休すらないというのが現状です。そう考えると、まだ意識をどうするかというステージにも立っていないんです。ですので、まずは制度として、しっかりと利用していただき、その上で、真の意味で「育休をとる」とはどういうことかを考えられるように進めたいです。例えば育休取得の対象となるような職員がいたら、上司や同僚も含めて、職場で声がけだったり、しっかりと取得の計画を共有すると、具体的な話し合いの中で「1か月でもいいんだ」という気付きを促し、制度利用の機会を作れるんじゃないかなと思います。今回自分が取得したことで、多少なりとも男性の育休は話題には上がりやすくなったなと感じていますので、現場には上手く活用してほしいです。取った育休を本当に意味のあるものにしていくというステージはその先にあるのかなと感じています。」

G:「なるほど。ちなみに副市長ご自身の子育てについてもお聞きして宜しいでしょうか?」

N:「実は僕、元々あまり子供好きというわけではなかったんです(笑)。でも実際生まれてみると、自分の子供はメチャクチャ可愛いんですよね。そうなるともっとこの子といたい!と自然に思えるようになったし、オムツ替えとかが上手くいかないと、もっと出来るようになりたい!とも思うようになって。」

G:「いわゆるパパスイッチが入ったんですね!」

N:「そうですね。でも一方で人それぞれの価値観もあります。育児だけでなくそれぞれに大切なものがある。先ほどの話にも通じますが、そうした自己実現を、例えば制度やルールといった形を介して、どのように進めていけるのかというのは中々悩みますね。」

G:「特効薬がない話ですからね。でも今お話をお伺いする中で、ご自身のお子さんのお話になった時に、副市長とってもいい笑顔でいらっしゃいましたよね。」

N:「そうですか?(笑)」

G:「はい(笑)。そこってすごく大事かなって。今回率先して育休を取り、そしてご自身が子供との時間を目一杯楽しんでいらっしゃるなと感じました。先ほどの男性の意識をどうやって育てるかという点についても、そうしたロールモデルが増えていけば、「俺も俺も」と連鎖していくんではないかなと感じます。でもそうして男性の育児参画の希望が芽生え始めると、一方で育児に参画する余裕がない!という方の声も聞こえるようになります。そうなると、今度は「働き方をどうしていくのか」という課題も見えてきますよね。」

 

N:「僕もそう思います。例えば育休を取ってチームの一人が一定期間いなくなると、周りの人に全く影響がないとは言えませんからね。職場として心からおめでとうと言ってあげたいのに、内心は忙しすぎてその余裕がなかったり…。そう考えると働き方をどうしていくのかというのは本当に大きな課題ですよね。」

G:「そう思います。FJでは、先ほどお話したイクボスプロジェクトにおいて、企業同士が様々な取組や事例を共有出来るネットワークとして“イクボス企業同盟”を運営しています。最近だと積水ハウスさんの育休100%が話題ですが、こうした事が出来る組織というのは、例えば属人化を防ぐために情報が高密度に共有されていたり、今回のコロナウイルスのようなケースへの対応をどうしていくのかという対策がしっかりとされている組織だと感じます。そうした積極的な取組であったり、そういう情報を共有出来たり学んだりする機会があると、育児に限らず一人一人の選択がより実現されるようになっていくと思います。」

N:「僕もそう感じます。それともう一つ思うのが、プライベートをいかに充実させるかも大事だなと。僕も昔、何日も職場に泊まり込んで…というようなことがありましたが、体力は削られるし、パフォーマンスが落ちていくのが分かるんです。でも私生活が充実していくと上手く循環していくなと実感しているんです。その充実の要因の一つが子育てという社員も大勢いるはずですからね。僕の場合は、やはり自分の子供が可愛いですし、子供が笑ってくれていると自分も嬉しくなる。するとこの子も含め、子供達が迎える未来のために今頑張っているんだなと思うようにもなりますし、そうして仕事への活力もまたチャージされていくような気がしています。」

G:「大切なものは家族だったり趣味だったりと人それぞれでしょうが、それを守るために、目の前の仕事とどう向き合って、優先度を吟味し、どのようにして成果を最大化していくのか?という工夫を一人一人が積み重ねていくと、今よりも職場の働き方改革は進みますよね。」

N:「そう思います。今後、花巻市も職員の数が限られていく一方、行政として求められている仕事もどんどん増えていき、複雑な対応を求められるようになっていくと思います。そんな中で職員の皆さんにどうやりがいを感じてもらい、成果を最大化していくのかと考えると、作業的な無駄を極力削ぎ、企画立案や住民への対応といった部分にいかに力を入れることが出来るかという環境整備が大切だなと思います。今、市として外部人材を活用しICTを活用した業務改善プロジェクトを進めています。でも、システムを入れたらすぐ変わるとは思っていません。一人一人が自分の生活を考え、自分の仕事の進め方を見直していくことがやはり必要であり、RPAやICTというのはそうした土壌の元で活きるものだと感じます。」

G:「形骸化しないようにですね。この話のスタートは副市長の育休でしたが、そこから実に多くの課題が見えてくるんだな…と感じています。さて、今回の育休取得にまた焦点を当ててお聞きしていきたいのですが、取得に対して周りの反応はどうでしたか?」

N:「ありがたいことに、ポジティブな声を多く頂戴しています。社交辞令かもしれませんが、例えば若手の職員から「率先して取ってくれたので有難いです!」というようなことを言ってもらえたりしたこともありました。でも、これが部下にも浸透し、今後もこの流れが続くためには制度的な面での支えというのもやはり大事だと思っています。先ほど意識という話もありましたが、ルールで決まってるから取るかな!のようなスタートでも、一人二人と増えていけば空気は変わっていくんじゃないかなと感じます。今回の取得を通じて、人事課とも何か仕掛けられないかと話をしていたところでした。」

G:「これを機にイクボス宣言されたらどうですか?」

N:「あれ?まだしてませんでしたっけ(笑)?」

G:「はい(笑)。今回の育休取得を通じ、より男性が家庭に参画するような空気が生まれていくと、妻の負担が軽減されて気持ちの余裕を生むでしょうし、それは虐待の防止や、熟年離婚を防ぐことにもなると思います。そうなると、夫婦で家庭を回しているので、家庭のためキャリアを諦めた…というような女性も少なくなっていくと思います。ですが男女共にそうして仕事と家庭を両立するためには、働き方が変わっていかないといけません。そしてそれを変えるにはキーパーソンが必要なんです。それがイクボスです。」

N:「たしかにボスの果たす役割は大きいですね。4月に花巻に来て、ここ最近強く感じているのは、やはり「最後は人」だなということです。市役所というと国や県のルールにある程度は縛られることもありますが、その中でも工夫していく余地は大いにあると思っているんです。その為には各個々人の職員、いわば「人」の能力がフルに発揮される必要があります。一人一人が活き活きと働くことが出来れば、パフォーマンスも成果もついてきます。今の立場になって、それを実感しています。それともう一つ思うのが、「仕事は仕事と割り切っている」様な職員がいる時があります。勿論各個人の価値観というのはあるのですが、もしかすると、正当な評価を得られないから…とか、何らかの苦痛を感じてやりがいを感じることが出来ていないのかな…というのもあるかもしれないなと思っています。ですが、同じ仕事をするなら、やりがいを感じてほしいですし、勤務時間を実りある時間に彩ってくれたらなという風にも思います。」

G:「ですね。そのカギを握るのが、管理職やチームリーダーも含め、いわゆるボスと言う立場にある皆さんだと思いますよ。先ほど副市長がおっしゃったように、これから人も少なくなる中、いかに一人一人のポテンシャルを引き出せるかということが大切になっていくでしょう。すると、マネジメントをする側の力量と意識が本当に大切になってきます。チームメンバーの価値観も、抱える制約もますます多様化していくでしょうしね。」

N:「そうですね。それにリクルートという点でも価値がありますよね。この職場で働くとあなたのキャリアをこんな風に実現できるというだけでなく、ライフにおいても自己実現が可能となりますよと打ち出せるといいなと思っています。」

G:「仰る通りです。大学生にキャリアの授業をすると、そうした仕事選びについても感想を頂戴する機会があります。その中でも私生活と仕事の両立は関心がかなり高いです。育休についても同様ですね。日経新聞でも、男女問わず、育休を「取りたい・取ってほしい」という声がかなり多いという記事がありましたし、実際に大学生のレスポンスカードにも「自分も育休を取得したいので、そうした職場選びをしたいです!」というような感想が年々増えています。今回の副市長の率先したアクションは、そうした学生たちにとっても追い風になると思います。」

N:「そうであってほしいですね。」

G:「今後ともこの波を加速させていきましょう!引き続き、何かご一緒できることがあれば、共にアクションを起こしていきたいですね。」

N:「そうですね。是非よろしくお願い致します!」

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